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18 沼のほとり

18 沼のほとり
 風もない、凍りつくような星の夜明け前、男たちは外に飛び出した。雪の表面はかっちりと締まっている。走っても崩れない。森も藪も雪の高さで平らに開け、どこまでも歩いて行ける。山には鹿の群れがいるようだが、気配はまばらだ。
 今回は若い衆の集団と、イワクスの家の者とで二手に分かれた。若い衆は鹿を追って峠を越えた。イワクスたちは川筋を下って、川幅の広い淀みをめざす。水鳥が越冬していて、確実に手に入ると見たのだ。
 弓を持っているのは、イワクスとトギホ、それにカタカシだ。
 そして、数日前の夕方、ミツハに声をかけられたひょろひょろと痩せた男が後ろに従っていた。
 彼、ナガフシは、足手まといだからと狩りから外されたのだ。一人唇をかんでいるナガフシに、イブキが声をかけた。
「吾らと共に行ってみないか。」
「……でも……」
「狩りに行きたくはないのか?」
「行きたいけど。」
「なら、大丈夫だ。」
イブキはほほ笑んだ。ナガフシはおもわず頷いていた。

 

 身の軽いカタカシが先頭をいった。しばらく川沿いの自然の土手の上を、途中から川筋と帯のように連なる森のあいだを縫って歩いた。やがて土手が大きく盛り上がり、一枚岩の崖が現れる。流れはその崖を回り込むように蛇行し、川幅が大きく広がって海へ続いている。
 浅瀬の近くにはムジナ、キツネ、カモシカの足跡もあった。中州にはヒシクイやカモの群れがいるが、今回はこれらは追わない。森ではウサギの足跡が頻繁に見つかった。食うための狩りの後にはウサギ狩りもいいかもしれない。肉は薄いが、しなやかな皮とふっくらした毛は上等な衣類になる。
 崖に登って見下ろすと、渋みがかった濃緑の水がねっとりとうねっている。
 崖の反対側、三日月のように回り込んだ川筋の向こうに、本流から離れた広大な沼が広がっていた。岸近くは白く凍り、登り始めた太陽をまぶしく映している。結氷していない中ほどに、鳥たちが寄り集まり、まだ、しーんと根鈴待っているようだ。
「ほう。初めてみる景色だ。以前はこんな大きな沼はなかったが。」
トギホも首をかしげた。春や、嵐の大雨のあとには川幅がぐっと広がって湖のようになるが、乾けば草地の上の雪野原だった。
「……飢饉のときにできた。」
ナガフシが消え入るようにいう。
「飢饉?」
そのようなことがあるのだろうか、イワクスもトギホも信じられない思いだ。
「そうだ、何人もの人がこの川近くで行き倒れた。その後に水が湧いたって聞いたことがある。それが泉になったって。それがこの沼になったの?」
うわさを思いだしてカタカシが訊く。ナガフシは頷くでもなく首をふるでもなく、あいまいな表情で縮こまった。
「そんなことがあったのか……」
 トギホは胸が凍る。ニギホだってほんの少しの巡りあわせが違っていたら、飢えて死んでいたかもしれない。

 イブキは、考えている。沼……何かの記憶がふいに心をかすめた。半分氷に覆われたこの景色は見たことがある。丘の上から眺めたとき、日の光が、目に入り込んできた。悲しみと、やり場のない怒りを押し込めて震えていたあの日。だが、ほんのわずかな疼きを残して、記憶はあいまいなまま消えた。
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プロフィール

楠田文貴

Author:楠田文貴
生まれてこの方何をしても
波打ち際でアップアップの人生でした。
で、初めてUP(オイオイ)
波をこえてどこまで行けることやら……
 さて、物語の登場人物たちが
やけに幼いと感じたら、それが
作者の今現在です。
どうぞ寛容をもってお読みください。

初めての方へ
初めての方へ はじめまして、このブログを見つけて下さってありがとうございます。 このブログは第三章からになっています。ここから読んでも差し支えありませんが、以前のお話をお知りになりたい時は 第一章、第二章をホームページ 《れんげ畑と古の森》 に収録してありますので、そちらをご覧ください。 また、古い記事が上になっています。上から順に読み進めていただけます。 お楽しみいただけたら幸いです。 なにかお気づきのこと、ご感想などございましたら、お気軽にコメントをお寄せください。
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