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5 再会


5 再会
「罰は私が受けます。あれは見逃してください。」
 この声。
何度も何度も、心のうちに響いてきた声。

 トギホのまわりの全てが消えた。真下に走り寄った少女だけがトギホの視界を占めた。煤けて黒い顔に眼ばかりがまんまるいこの顔。

「ニギホ!」

「……トギホ!」

 言葉もしぐさも止まってしまったトギホの後ろを怪物がうかがっている。
「大丈夫、この人はわたしの兄弟よ。」

 ニギホの声に、樹上の動きが止った。トギホはすべるように木を降りた。
 あれこれ、山のように話すことがあるはずだったが、互いに言葉が出て来ない。
「とうさんは?」
「ムラにいる。」
 ニギホはほっと溜息をついた。
「ようやく、帰って来たのね。」
 そっくりだった双子は、離れているあいだにずいぶんと変わっていた。トギホは背が伸び、髪は硬く黒く巻き、父に似たごつごつした顔になってきた。潮くさく大人びた風貌になろうとするのを、生き生きと良く動く丸い眼が押しとどめている。
 ニギホは、痩せこけて背も伸びていない。わずかな着衣から露出している膚はすべて煤けて汚れている。トギホより早く大人になるように思われた娘入り前よりも、小さくなってしまったようにさえ思われる。
 だが、眼だけはトギホとそっくりだった。その瞳は強く濡れ濡れと輝いている。

 琢には、娘の目が、巣穴の出口で必死に身構えている小動物のように見えた。
 われも、端耶を逃げ隠れしていたころは獣じみていたかもしれぬ。
あの地の民はどうなったのだろう。おのれ一人生き延びるために、多くの人の血を流してきた。同胞への思いは今も胸底に埋み火となっている。
 
 茂みの中から、幼い子供らがおずおずと姿を現した。
 樹上を飛び回っていたのは、人、まだ子供だ。ニギホが拾った孤児の少年カタカシだった。
 木の陰から出てきた子供たちは棒切れのように細い。腹だけが、蛙の喉のように膨らんでいる子供もいる。ムラの老人たちにはまだ余裕があったことを、トギホは思い知った。ニギホも親のいない子供たちも、猿に化けた少年の施しで生き延びていたのだ。親を亡くした子供達はうち捨てられていた。

 オトナならできる猟も子供には難しい。生り物集めも、たいがい大人に先を越されてしまう。以前のムラなら、どれほど食べ物が乏しくても、子供にはちゃんと取り分があった。今は、大人が獲った分、すべて自分の物にしてしまう。余っても与えようとはしない。蓄えるのだ。
 樹上から獲物をかすめ取るのは、身体が小さく身軽な子供だからこそできる技だった。
 その所業も、子供の仕業だと知れば、どこまでも追いかけて捕え、殺されてしまうかもしれない。なりが小さくても化け物なら、恐ろしくて容易に手が出せない。獲物がどれほど惜しくとも諦める。
彼らは都合よく化け物だと思ってくれた。少年はムラの大人たちが勝手にそう思い込んだのだと笑った。が、ニギホは、いつか正体がばれると気が気ではなかった。


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プロフィール

楠田文貴

Author:楠田文貴
生まれてこの方何をしても
波打ち際でアップアップの人生でした。
で、初めてUP(オイオイ)
波をこえてどこまで行けることやら……
 さて、物語の登場人物たちが
やけに幼いと感じたら、それが
作者の今現在です。
どうぞ寛容をもってお読みください。

初めての方へ
初めての方へ はじめまして、このブログを見つけて下さってありがとうございます。 このブログは第三章からになっています。ここから読んでも差し支えありませんが、以前のお話をお知りになりたい時は 第一章、第二章をホームページ 《れんげ畑と古の森》 に収録してありますので、そちらをご覧ください。 また、古い記事が上になっています。上から順に読み進めていただけます。 お楽しみいただけたら幸いです。 なにかお気づきのこと、ご感想などございましたら、お気軽にコメントをお寄せください。
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