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6 笑み

6 笑み
 ニギホの後ろにいた子供たちに、トギホは干しイカを裂いて渡した。子供たちはすぐに口に入れてくちゃくちゃ噛み始めた。その顔がうそのように輝いている。
 とうに子供入りしていてもよいくらいの背丈の少女テグルミ、幼い男児のカツラ、それに、ムラの大人に生かしてどうするのだ、といわれた女児キノがニギホと一緒に暮らしていた。
カタカシは、常に樹上で寝起きしてニギホたちと一緒に寝泊まりしていない。木の上が好きなんだ、と、笑っている。

 「なあに、これ?」
ひよひよとしゃがれた声がして、灰色に痩せこけた素裸の子供が幹に突き刺さった刃物に触った。一番小さいキノだ。
「危ない。」
琢は思わず端耶の言葉で叫び、あわてて子供を引き戻した。直に骨がぶつかるような感触なのに抱き上げると籐枕のような軽さだ。
キノは、ひっと泣き出した。
ニギホが飛びつくようにして子供を取りあげ、怪我の有無をあらためる。どこにも怪我は見えない。
ほっとして振り向き、大丈夫と身振りで示す。
「不覚だった。」
琢は、自分を恥じるように刃物を幹から引き抜くと、髪留めの鞘に収めた。
 
ニギホは初めて青年を見た。背は高いのにきゃしゃな体つき、さらしたユウのように白い膚、ほっそりしたあご、細い眼。光沢のあるしなやかな布で全身をゆったりと包んでいる。怪我がないとわかって、子供に微笑みかけた。
 腕の中のキノはむずむず動き、琢に手を伸ばした。琢は幼児をやすやすと抱きとった。キノはきゃっきゃとはしゃいだ。
 この子はこんな風に笑ったことがなかった。ニギホがどんなに心をくだいて世話をしても、遊んでやっても、こんな声は出したことがなかった。
 子供たちは一様に腹をすかせ、まわりのすべてにびくびくして生きている。
 その子がなんという手ばなしで嬉しげな笑い声だろう。まるで、好きな男を前にした年頃の娘のようだ。
 ニギホの胸はかっと焼けるように熱くなった。

だが、トギホは、琢が髪留めの中におさめた小さな刃物に興味をひかれた。
「初めてみたぞ。それも人を狩る道具なのか?」
「本来は髪を整える道具だが、護身用にごく小さな刀を仕込んである。」
「ゴシンヨウ?」
「思わぬ敵から身をまもるためのものだ。」
「へえ、お前は敵に狩られるほうだったのか。」
「いや、人を狩るのとは違う争いごともあるのだ。」
「おまえのクニは恐ろしいな。」
 琢は苦笑する。
「しかし、この地にも、汝の言ったような豊かで美しいムラは一つもないではないか。何もかもが不足し、人々は食物を奪い合い、たがいに恐れ、脅えて暮らしている。」
トギホは考え込む。
「俺ら祖の神の土地に、こんな荒れ果てたムラはどこにもなかった。昔は食べ物を争わなければいけないなんて思いもしなかった。生き延びることがものすごく難しくなったんだ。」
 
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プロフィール

楠田文貴

Author:楠田文貴
生まれてこの方何をしても
波打ち際でアップアップの人生でした。
で、初めてUP(オイオイ)
波をこえてどこまで行けることやら……
 さて、物語の登場人物たちが
やけに幼いと感じたら、それが
作者の今現在です。
どうぞ寛容をもってお読みください。

初めての方へ
初めての方へ はじめまして、このブログを見つけて下さってありがとうございます。 このブログは第三章からになっています。ここから読んでも差し支えありませんが、以前のお話をお知りになりたい時は 第一章、第二章をホームページ 《れんげ畑と古の森》 に収録してありますので、そちらをご覧ください。 また、古い記事が上になっています。上から順に読み進めていただけます。 お楽しみいただけたら幸いです。 なにかお気づきのこと、ご感想などございましたら、お気軽にコメントをお寄せください。
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