FC2ブログ

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

4 一人の心

4 一人の心

 「人数が増えて、家が狭くなった。ババサマには静かに養生してもらいたかったのだが、子供らはちょろちょろするし。」
 イワクスはババサマたちのために入口を挟んだ別棟をたてようと皆にきり出した。
 だが、ばばさまは、
「わたしは、子供らの動き回るのを見るのが一番嬉しい。
 ムラに戻ることになって、やはりみんなが死に絶える姿を見送らねばならぬのかと悲しんでいたが、そうではなかった。滅亡の下でこの子らはきっと生きぬいて新たな世を開く。子らは次の世への望みのあらわれじゃ。目の前で見ることができて、なにより有り難く思っている。狭さなど苦にならぬ。」
 自分たちのためなら新たな家はいらぬと答えた。
 しかし、この大人数ではいかにも狭すぎる。それに男たちは、新たな暮らしに張り切っていて、子供のように大仕事を欲しがっていた。
 これから真冬にかけての作業は困難だが、地面を背丈の半分も掘り込んで、土壁をのせる方法にする。平地に建物をのせるより、柱や屋根の材を節約できる。小さな見かけの割に中は広く、冬は暖かで居心地はいいはずだ。
 そうはいっても柱の材や屋根の萱は多く必要で、あくる日から採りに出ることになった。イワクスはイブキを伴って森の木を伐りに行く。カタカシは
「いい材のあるところへ案内する。」
といって、二人の先に立つ。
 ニギホは雪が積もる前に木の実草の実を採りに行きたかった。ミツハとテグルミも一緒に出掛ける。カツラとキノは家の前に干した草や木の実の番をいいつかった。
 萱集め役のトギホが家の中に残った。
「どうしたのじゃ、トギホ。」
ババサマがきく。
「なんだか、ニギホが遠くなったようで、何を思っているのか分からなくなったんだ。以前なら、離れたところでも、互いが呼び合っているのが分かったのに。側にいても、話をしても、本当の気持ちとは違う感じがする。なんだか、薄い膜の向こうにいるみたいなんだ。」
「そなた、ニギホの他に気持ちが伝わりあう人はいたか?」
「いや、ニギホだけだ。」
「普通の人は、他人の気持ちを知ることはできぬ。ことばを尽くして己の意を伝え、相手の思いを解ろうとはするが、思いそのものが直接心に入って来ることはない。だが、そなたらは特別の絆を持っておった。」
「特別の絆?」
「幼いころ、そなたらはどちらがどちらかわからなくなるくらいよく似ておった。お互いの気持ちも、二人で一つの心を持っているようじゃった。いつも二人でいて、お互い同じ気持ちを持つ。離れている時も、もう一人の自分を心に住まわせる。呼び合えば互いの心が流れ込むほどに通じ合っていた。
 だが、子供から、若者になり、娘になって、少しづつ心に隔たりができ、それぞれが自分一人の心を持った。そなたの長い旅の間、二人は全く別々の暮らしをしてきたのじゃ。隔たりはずっと大きくなった。」
「せっかく帰ってきたんだ。隔たっていくなんて嫌だ。」
「だが、隔たりを持つのは悪いことではないぞ。それぞれが自分だけの心を持って、大人になっていく。当たり前のことじゃ。ニギホが自分の胸の内だけに持っている思いは、無理に探るな。そなたらは、いつまでも一緒ではいられないのだから。」
「俺はニギホを護りたい。旅の間、ずっとそう思ってきた。ニギホの声を聞いて帰って来たんだ。あのとき俺にはニギホの叫びがちゃんと聞こえていた。」
「離れていればこそ、心の叫びが伝わったのかもしれぬ。不思議なものじゃのう。」
「ニギホがつらい顔をしているのに、俺は痛くも痒くも感じない。俺は情けないんだ。」

「そなた、女の子を好きになったことはないか?」
「ニギホが好きだよ。」
「ニギホの他に。長い旅の間に、そばにいたいとか、触りたいとか思った女はいなかったか?」
 トギホは考え込んだ。
「いずれ、そなたも女を求め、共に暮らしたいと願うようになる。そうなればおのずとわかって来る。どれほど強いきずなの同胞でも、知られてはならない心のうちがあることをな。」
 だが、トギホは納得していない。ニギホの外に気をひかれる女などいるわけがない。
「そなたたちも、日々育っていく。倒れた大木の下の若木のようにすっくりと伸びていく。嬉しいことよ。」
 ババサマはすうっと目を細め、やがて寝息をたてはじめた。オバサマはババサマの身体を横たわらせ、足元の毛皮をそっと引き上げた。
 トギホは首を振って立ち上がり、のろのろと外にでた。日の光がまぶしい。分からない、心の奥ではうすうす気づいているのかも知れないが、分かりたくない。トギホはもやもやを振り切るようにえいと走り出した

文中、人名を間違えてしまいました。
イワクスはイブキを伴って森の木を伐りに行く。テグルミ⇒カタカシ
「いい材のあるところへ案内する。」
といって、二人の先の先に立つ。
 と訂正いたしました。
失礼いたしました。
スポンサーサイト

コメント

Secret

プロフィール

楠田文貴

Author:楠田文貴
生まれてこの方何をしても
波打ち際でアップアップの人生でした。
で、初めてUP(オイオイ)
波をこえてどこまで行けることやら……
 さて、物語の登場人物たちが
やけに幼いと感じたら、それが
作者の今現在です。
どうぞ寛容をもってお読みください。

初めての方へ
初めての方へ はじめまして、このブログを見つけて下さってありがとうございます。 このブログは第三章からになっています。ここから読んでも差し支えありませんが、以前のお話をお知りになりたい時は 第一章、第二章をホームページ 《れんげ畑と古の森》 に収録してありますので、そちらをご覧ください。 また、古い記事が上になっています。上から順に読み進めていただけます。 お楽しみいただけたら幸いです。 なにかお気づきのこと、ご感想などございましたら、お気軽にコメントをお寄せください。
 目次
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
ブロとも一覧
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
にほんブログ村
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。