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9 祀り

9 祀(まつり)

 イワクスは、香り高い湯を飲みほし、立ち上がって地面にも飲ませた。若者たちがそのとおり真似をする。いかにも物馴れたイブキのしぐさに
「イブキ、おまえのクニでもこういうことをするのか?」
トギホが訊く。
「冬至の祭りはあったが、こことはずいぶん違っていた。月日の巡りを読めるのは、国を統べる一部のものと、学者くらいなものだ。式日には夜明け前に城の高殿に旗が掲げられる。人々は旗の模様で、その日を知る。冬至は黒一色。国王自ら日の出に祈った。民は日暮れの刻にあわせて、そこらのものを手当たり次第に叩いて音をだし、歌い踊った。われも踊った。」
「おまえも踊ったのか?」
「見よう見まねだ。」
「信じられないな。」
「遠い昔のことだ。それより驚いたのは、カタカシやテグルミまでが、この日の意味を知っていることだ。この地では、だれでも月日の巡りを読むことができるのか?」
「あの赤い山、アケの峰というが、ここからちょうど真東にある。このムラでは、あの峰のどのあたりから日が上るかを見て季節の巡りを見ている。ババサマが日々印を刻んでいたが、離れた場所に住む人らは自分で印を刻む。」
「人々がそれぞれ知恵を持ち、勝手に動いて、国が成り立つのか?」
「わしらは同じ場所でずっと一緒に暮らすとは限らない。ここのように大きなムラに落ち着くこともあれば、一つ二つの家族で出ムラを営むこともある。遠く離れた場所に行っても、日を刻む術を知っていれば、ここと同じように暮らしを組み立てることができる。わしの生まれた南の土地でも、日と月の読み方は小さい時から教え込まれた。
ババサマが口元を動かした。
「あの時からわたしは日を数えることをやめた。しかし、神々が去った今でも、日々の節目は狂うことなく巡って来る。わたしは何一つわかっていなかった。祀は、神々の定めた神々のものだと思っていたが、それは、人々のためにこそあるものだったのだ。」
「ババサマ。」
「そなたのおかげで、ここにいる人々は、暮らしのよりどころをひとつ取り戻した。この世が生まれる前から、月と日の巡りはあり、世が滅びた後も続く。生き残って新たな世を築く人々にも、それは変わらぬことわりなのじゃ。そなたは大事なことを思いださせてくれた。」
 遠巻きに見ている年寄りたちにも呼びかけた。
「大人の方々、皆さまも竹の器の白湯を飲んで、今日の節目を祝ってくだされ。時は、人の世がどう変わっても、変わらず巡り来る。その有り難さを、思い起こして冬を過ごし、春を待ちましょう。」
 ニギホとミツハが竹の器を人々に回し、オバサマは湯を注いで回った。人々の顔に、確かなものに気づいた表情が浮かんだ。
「ここに集う皆に、このムラに、荒れ果てたこの世に良い日々が巡り来ますように。」
オバサマは、そういってささやかな祀を終えた。
 
 年寄りたちがぼそぼそと祝い事を言って散ってゆき、イワクスと若い者たちは仕事にもどる。
「ババサマ、わたしは良いことができたのですね。」
オバサマがしみじみといった。
「そなたは、十分に年を取っているが、今も新たに育っておるようじゃ、今日は一回り大きゅうなった。」
「まあ、そんな。」
オバサマはくちをすぼめ、二人は若い娘のようにくすくす笑った。
「このわたしもじゃ。長々と生きていても、いまだに新たに気づくことがある。」
「ババサマも大きゅうなりました。」
「衰えて死を待つばかりと思っていたが、そればかりではないのじゃ。」
 世の興亡も人生に似ているのかもしれぬ。まさにこの世が滅びるときにも、その内で新たな芽が吹きだしている。
 

 短い午後が過ぎ、日の光が急にうすれた。うずまく風が、嘆きのように森を揺する。

 いきなり言い争う声が響いた。広場の正面奥、壊れ残ったババサマの館の前だ。
 数人の若者の輪の真ん中に、イワクスがここに戻った時から住んでいた年寄りが囲まれている。手を振り回し、金切り声で怒鳴っている。若者たちは寄ってたかって年寄りに何かを迫っている。

「何の騒ぎだ。」
 館の中から年寄りたちが転がり出て、言い争いに加わる。
「あいつら、館のくずれたところの柱を持って行こうとしてるようだ。」
「それは危ないぞ。下手に動かすと残った側も崩れかねない。」
「いや、そうじゃない。若い者らは、あの片側に屋根をさし掛けて小屋を作るつもりなんだ。なるほど、骨組みを補強して寄りかかれば、簡単に大きな家になる。」 
「ふうん、あいつらムラ内に住む気なのか。」
「木の洞や根方で過ごすのはきついからな。」
「だけど、年寄りは迷惑がっている。」
 ならば、若い者たちと年寄りで解決すればいい、イワクスは思った。折り合いをつけるのはそう難しいことではないだろう。

 ところが、いさかいは治まらなかった。
「おい、模様眺めしてないで、こいつらを追い出してくれ。」
年寄りの一人が、イワクスに急き立てるように言った。

「へ、自分じゃ何一つできない老いぼれが加勢を頼むのか。お前らも一緒に追い出してやるぞ。」
 若い者の頭らしい男があおると、どっと笑い声があがり、口々にこちらをののしりあざ笑った。
「仕方ない。」
手にした縄束を置くと、のっそりと歩き出した。
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プロフィール

楠田文貴

Author:楠田文貴
生まれてこの方何をしても
波打ち際でアップアップの人生でした。
で、初めてUP(オイオイ)
波をこえてどこまで行けることやら……
 さて、物語の登場人物たちが
やけに幼いと感じたら、それが
作者の今現在です。
どうぞ寛容をもってお読みください。

初めての方へ
初めての方へ はじめまして、このブログを見つけて下さってありがとうございます。 このブログは第三章からになっています。ここから読んでも差し支えありませんが、以前のお話をお知りになりたい時は 第一章、第二章をホームページ 《れんげ畑と古の森》 に収録してありますので、そちらをご覧ください。 また、古い記事が上になっています。上から順に読み進めていただけます。 お楽しみいただけたら幸いです。 なにかお気づきのこと、ご感想などございましたら、お気軽にコメントをお寄せください。
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