スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

11 知恵とちから


11 知恵とちから
 タカウズがしびれを切らしてイワクスに迫った。
「ええい面倒だ。俺と勝負しろ。お前が勝ったら言うことを聞いてやる。俺が勝ったら、俺が全部指図する。」
 上背はイワクスほどはないが、いかにも腕力自慢らしい肩幅も厚みもある大男だ。盛り上がった額の下の暗い目は狼のように険しくにらみつけてくる。
「ムラに住む気なら、なんとか折り合いをつけろ。」
「うるさい。」
 いきなり躍りかかる、体をひらいて横ざまにあしらうと勢いあまって薪たばに突っ込んだ。タカウズは薪の一本をつかんで、イワクスに突き出す。
「くそ、まともにかかって来い。」
「喧嘩はしないと言ったろう。」
 イワクスの声が高ぶった。落ち着け、焦っては収めようがないぞ。
後ろの若者たちが、ばらばらとイワクスを囲んだ。後ろの年寄りたちも、棒を持ち出して身構えている。
「やめろ!」
イワクスは雷のような大音声をあげる。
「争わずに、譲り合うことはできないのか。」

「まずい、乱闘になるぞ。」
トギホは萱束を放り出して走り出した。イブキとカタカシも続く。

 頭上高くから石つぶてが降って来た。シュッと細く光る物が飛び、石つぶてにぶつかった。礫は真っ二つになってイワクスとタカウズの真ん中に落ちた。割れた礫の断面がきらきらと輝く。
 人々が息を呑む一瞬、水鳥が舞うようにゆっくりとイブキは髪留櫛を拾い、結髪の鞘に戻した。

 裸木の枝がぐっとしなった。ドウッと風が押し寄せ、低く垂れながらも持ちこたえていた雲が崩れた。ふわふわ待っていた雪は、いきなり横殴りの吹雪になった。あたりは見る間に白くなっていく。人々の顔にも横殴りの雪が張り付いていく。
「いかん、屋根葺きが終わらないうちに雪に埋もれてしまう。」
「あるじどの、仕事をいそぎましょう。」
「だが、もめ事をこのままにはしておけぬ。」
「若い衆は力が余っているようだ。働いてもらいましょう。」
「なんだって?」
「急いで仕事を終わらせて、とりあえず今夜は屋根のある家に寝泊まりさせましょう。もめ事は明日に持ち越してもそう変わりますまい。」
「それは、屋根さえつければいいのだが、しかし……」
 
まかせてくれとイワクスに頷いて、イブキは若者衆に晴れやかな笑みを向けた。
「吾はこの主どのの客だ。若い衆よ。そなたらも客となれ。一働きすれば新しい屋根の下で、休めるぞ。」 
 タカウズは不思議の術にかかったようにイブキに従い、若者衆もならった。
 カタカシを交えて男四人の仕事が一気に十一人という人数になった。

 雪は、どどーっと吹雪く。木と竹の骨組みは風にあおられてゆさゆさと上下する。屋根の手子は下りてくるわけにもいかずしがみつく。一時荒れるとふっとおさまり、うす雲を透かして白い太陽がぼんやりみえたりする。この時とばかり、下の者は萱束をほうりあげる。上のものは、骨組みに括り付ける。
 日が暮れかかり、周りがよく見えなくなった頃、ようやく屋根葺きは終わった。
「驚いたなあ。手際よく運んだものだ。」
イワクスはイブキの手腕に舌を巻いた。
「人手って、すごいもんだな。」
トギホは感心している。
「若い衆らも、たいしたもんだ。屋根に乗るのも初めてだとは思えない。」
背丈ほどの高さの入り口から中に入る。
 中は外から見た印象よりずっと広い感じだ。思い思いに乾いた枯草を敷いて寝床を作った。
 「今夜は、火を入れるわけにはいかないが、深く土を掘り込んだから、十分暖かいぞ。」
新しい家に火を迎え入れるのは朝でなければならない。火の神の機嫌を損ねてはどんな災いが降りかかるか知れない、とイワクスは言ったが、そのような言い伝えも知らない若者たちだった。

スポンサーサイト

コメント

Secret

プロフィール

楠田文貴

Author:楠田文貴
生まれてこの方何をしても
波打ち際でアップアップの人生でした。
で、初めてUP(オイオイ)
波をこえてどこまで行けることやら……
 さて、物語の登場人物たちが
やけに幼いと感じたら、それが
作者の今現在です。
どうぞ寛容をもってお読みください。

初めての方へ
初めての方へ はじめまして、このブログを見つけて下さってありがとうございます。 このブログは第三章からになっています。ここから読んでも差し支えありませんが、以前のお話をお知りになりたい時は 第一章、第二章をホームページ 《れんげ畑と古の森》 に収録してありますので、そちらをご覧ください。 また、古い記事が上になっています。上から順に読み進めていただけます。 お楽しみいただけたら幸いです。 なにかお気づきのこと、ご感想などございましたら、お気軽にコメントをお寄せください。
 目次
最新記事
最新コメント
月別アーカイブ
ブロとも一覧
カテゴリ
検索フォーム
RSSリンクの表示
リンク
にほんブログ村 小説ブログ 歴史・時代小説へ
にほんブログ村
ブロとも申請フォーム

この人とブロともになる

QRコード
QR
上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。