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19 白鳥



19 白鳥
前を歩くトギホが思いきり快活な声をあげた。
「いやあ、どこもかしこも鳥だらけだ。早く行こうぜ。うまくいけば夜までに獲物をいっぱい担いで戻れるぞ。」

崖を下り、浅瀬を渡って沼にむかう。
「あっ、」
何でもない所でカタカシがぐらりとよろめいた。足に白い紐のようなものが絡まっている。うごけばきつく締まっていくようだ 
「ワナだ、カタカシじっとしてろ。」
トギホはすぐにカタカシの足元の紐を掻ききろうとした。
「なかなか切れない。しぶといぞ。細い糸束なんだが、なんだろう。」
トギホがつぶやいた。
「これは、獣の脚の腱ではないか?琴の弦に使っていたのを見たことがある。」
「獣の脚だって?」
「足の肉から筋を取って、乾かして糸にするらしい。」
「こんなもの見たことがない。なあ、カタカシ。」
「初めて見たよ。だけど、こんなところで罠に引っかかるなんて、油断したよ。情けない。」
「カタカシ、仲間がいるからだ。それで気が緩んだ。全然悪いことじゃないよ。だけど、もう引っかかってくれるなよ。」
トギホが肩をたたいた。

カタカシはまた勇んで先頭を歩きだす。こんどは注意を怠らない。
イワクスは、引きちぎったワナをこねくり回している。仕掛けの輪が小さい。獣の脚の一本を捕えるだけで動けなくしてしまう。
祖の地のワナは獣の首にかける。草の蔓を大きく輪にしてけもの道に張っておくのだ。ねらう獣を決めて、行動をつかんでからしかける。だが、この足ワナは、そうではないようだ。ここを通るものなら何でも獲れるような仕掛けだ。
イワクスは思いだした。家族だけで小さな浜に住んでいた遠い昔、異郷の神々に供え物をしていた。その神々から賜った皮袋の口の紐が、これに似ていた。
あの神々の民ならこのようなワナを作れる。
租の神々の去ったこの地に、あの人々が入り込んで来たのだろうか。ずっと北のほうにあったあの郷が、こんなところまで伸び広がったのだろうか。この先、わしらの地にまで伸びて来るかも知れない。
世は、いったいどうなっていくのだろう。

鳥たちの鳴き交わす声がやかましくなった。狙うのは身体の大きい白鳥。白鳥の群れの周りを、緑や赤の派手な頭の鴨の類が寄り集まって囲んでいる。岸辺の葦の茂みに身を隠して弓を構えた。イブキは腰ひもに挿した石針を二本抜く。立て続けに投げて二羽仕留めるつもりだ。ナガフシは小さな袋から小石をいくつかつかみだした。
ふうっと息を吐く。イワクスの合図で一斉に放つ。三本の矢と、石針と小石。鳥たちは慌てふためいて空に逃れる。その喧騒と、生き物のいなくなった沼の静寂。
一羽の白鳥がばたばた、羽ばたこうとして飛び上がれず、一声長く叫んだ。そしてゆっくり白い脇腹を見せて倒れた。トギホが氷の表に石を投げた。ピンとひび割れが走った。氷は意外に薄い。岸から続く砂の浅瀬に、棒を立てながら入る。すでに絶命しているのが二羽、都合三羽を仕留めた。
イワクスとトギホの矢が一羽に同時に当たり、すぐその奥でイブキの石針が一本命中していた。もう一羽には矢も針も刺さっていない。頭の横が小さく陥没しており、それが致命傷になっていた。
三羽の白鳥を水際に並べ、沼の水をかけてイワクスは丁重に祈った。
「恵みをもたらした白鳥よ、この祈りを聞きとどけよ。」

イブキはもう一本の針をさがしたが、沼の底では見つけようがなかった。
「水の中では、二本同時は難しいな。白鳥一羽に一本の針を失くしては引き合わぬ。」
 何も刺さっていない一羽は、ナガフシの小石だ。イブキは驚いてナガフシに聞く。
「すごい腕だ。だれに習った?」
「……誰にも。」
「自分で身に着けたのか?」
「……わからない……」
 それ以上は、何を聞いてもわけのわかる答えにはならなかった。
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プロフィール

楠田文貴

Author:楠田文貴
生まれてこの方何をしても
波打ち際でアップアップの人生でした。
で、初めてUP(オイオイ)
波をこえてどこまで行けることやら……
 さて、物語の登場人物たちが
やけに幼いと感じたら、それが
作者の今現在です。
どうぞ寛容をもってお読みください。

初めての方へ
初めての方へ はじめまして、このブログを見つけて下さってありがとうございます。 このブログは第三章からになっています。ここから読んでも差し支えありませんが、以前のお話をお知りになりたい時は 第一章、第二章をホームページ 《れんげ畑と古の森》 に収録してありますので、そちらをご覧ください。 また、古い記事が上になっています。上から順に読み進めていただけます。 お楽しみいただけたら幸いです。 なにかお気づきのこと、ご感想などございましたら、お気軽にコメントをお寄せください。
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