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25 怪我



25 怪我
 好天が続いた。風は冷たいが、日はまぶしく輝き、日向は驚くほど暖かい。
 まるで春のような陽気は、この季節では得がたい家作りの好機だが、若い衆たちはまだ戻る気配もない。屋根の骨組みを結びながら、カタカシはたびたび伸び上ってアケの峰の方を振り返った。
「何か見えるか?」
トギホも気になって手を止める。
「なんにも。」
「あ~あ、人数が少ないとはかどらないもんだなあ。せっかく自分たちの家を作っているのに、どこをうろついているんだろう。」
イブキが笑う。
「こう度々様子をみていては、吾らの手もずいぶんと遅いぞ。」
イワクスも、今一つ気が乗らない。
「この上天気で、大きな群れを見つけたのかもしれんな。深追いしすぎていなければよいが。」

 翌日、明けの峰の雪が、朝焼けで真っ赤に染まった。風もなく、まるで春の終わりのような陽気は、日向にいるだけで汗ばむほどだ。
 固く締まった雪の下から水がしみ出してきた。平地は雪をかぶって見分けがつかないが、積雪の下は空洞になり、踏めば足の重みでずぶりと穴が開くまでになって来た。
 雪解け水がムラウチの溝川にも流れ込む。
 イワクスは空を眺める。うす雲がしだいに広がって来た。
「明日あたり、天気が崩れそうだ。嵐になるかも知れん。」
 やがて、うす雲の向こうに太陽が傾き、地の果てから湧きあがった灰色の密雲に隠れ、一気に暗くなった。枝鳴りが遠くからゴウッと近づき、家を揺らして遠ざかっていく。
 トギホは、
「あいつら、どこまで行ったんだ。天気が変わらないうちに戻ってこないと難儀だぞ。」
「わしらが帰ってから三日、出かけてからもう五日になるな。」
とっくに天気が変わっても当たり前なことくらい、彼らだって心得ている筈だ。
「タカウズはアケの峰のあたりは良く知っていると言っていた。ちゃんとしのいで戻って来るだろう。」
イワクスは言ったが、心は落ち着かない。
 日が暮れるとぽつりぽつり粒の大きな雨が落ちてきた。雲と雲の間を稲光が渡り、雷が響く。これは荒れる。
 みな、横になっても寝つけず、吹き付ける風と、次第に強まる雨脚を聞き続けた。 
 
 夜半、俄かに人声が聞こえた。トギホが飛び出す。イブキとカタカシも続いた。
「来た、帰って来た。」
カタカシが叫んだ。

 娘たちも外に飛び出した。
 トギホとイブキは森の入り口まで駆けて行った。一行は六人、無事、いや、杖にすがって歩くのも覚束ないようす。どうやら皆あちこち怪我をしているようだ。
 トギホは見るなり、いちばんひどい怪我人に走り寄った。
「タカウズ!こんな足で歩いて来たのか。これじゃあ、家に戻るまでに夜が明けるぞ。」
右足の脛から足首が大きく腫れて普段の何倍も太く見える。足に力が入らないのだ。
「俺の背に乗れ。」
タカウズはぷいと横を向いた。
「たいしたことじゃない。戻れ。」
「何があったんだ。」
タカウズは答えない。

 家ではニギホが待ち構えていた。
「タカウズ、足を痛めたのね。」
雪を溶かした水で冷やした手でタカウズの足に触れた。タカウズは足をひっこめようともがいたが動けない。
「おい、何をするんだ。」
「わたしは手当ての仕方を心得ているわ。小さい時からいろんな怪我人を診て来たのよ、安心して。力を抜いて。」
 両足首は、熱を持ち赤くはれ上がって、これ以上膨らめば音を立てて裂けてしまいそうだ。慎重に触る。両足とも骨が折れている。この状態でよく歩いていたものだ。できるだけ自然に近い形に整え、添木に縛りつけた。
 手当の間、あれこれニギホは聞きだそうとしたが、タカウズはニギホと目を合わせるのを避け、口を引き結んでぐいっとあらぬかたをにらんでいる。
「くそっ、こんなことで借りを作るなんて。一生の恥だ。」
怪我の手当てを人にしてもらうのがよほど嫌なようだ。
「さあ、終わった。」
ニギホが言うと、ホッと息をついた。
「こんな大げさにして大きなお世話だ。」
と、伸ばした足を曲げようとした。
「駄目よ。今は動けないわ。当分はここでじっとしてて。」
 ニギホは、そばのカタカシに指示する。
「この薬湯を飲ませて、寝かせてあげて。すこし眠るでしょうから、目が覚めたら教えてね。当分、この子に世話をさせるわ。よろしくね。」
「なんだ?動けないだと?」
「今動いたら治るものも治らなくなるのよ。」
「こんな子供に何をさせるんだ。」 
「大丈夫よ、タカウズ。この子はしっかりしてる。あとは、あなたさえ妙なことをしなければ、きっと良くなるわ。」
 ニギホは、にっと笑顔のようなものを向けた。だが、タカウズにはとてつもなく変な表情に映り、ニギホも自分でそう感じた。

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プロフィール

楠田文貴

Author:楠田文貴
生まれてこの方何をしても
波打ち際でアップアップの人生でした。
で、初めてUP(オイオイ)
波をこえてどこまで行けることやら……
 さて、物語の登場人物たちが
やけに幼いと感じたら、それが
作者の今現在です。
どうぞ寛容をもってお読みください。

初めての方へ
初めての方へ はじめまして、このブログを見つけて下さってありがとうございます。 このブログは第三章からになっています。ここから読んでも差し支えありませんが、以前のお話をお知りになりたい時は 第一章、第二章をホームページ 《れんげ畑と古の森》 に収録してありますので、そちらをご覧ください。 また、古い記事が上になっています。上から順に読み進めていただけます。 お楽しみいただけたら幸いです。 なにかお気づきのこと、ご感想などございましたら、お気軽にコメントをお寄せください。
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