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27 手当て 2


27 手当て 2
 次に目覚めたとき、タカウズは身を起こそうとして身体が思うようにならず、もがいた。
「……あ。」
 ナガフシはあわててタカウズを助け起こした。
「なんだ、これは。どうなっているんだ。」
「怪我のせいだよ。」 
「鹿が……。あの川の側の岩に括り付けておいたんだ。取りに行く。」
「……鹿を?」
「アケの峰まで探り歩いて、開けた雪野原の隅でようやく群れを見つけた。立派な牝鹿を三匹獲った。いくつも峠を越え、苦労してあそこまで運んで来たんだ。今、行けば取ってこられる。」
「……無理だから。」
「なんだと。」
「大雪だよ。」

 ばたばたと忙しげな足音をたてて、ニギホが来た。
「目が覚めたのね。ぐあいはどう、タカウズ。」
「雪だって?」
「ええ、晴れていれば、日差しが差し込んでくる頃合いだけど、今日は暗いわね。」
 タカウズの顔を覗き込み、足の様子を見た。腫れはひかないし、痛みも酷そうだ。だが、タカウズは平気を装っている。
「おい、このワナみたいなの取ってくれ。邪魔でしょうがない。」
「しばらくははずせないわ。不自由だけど、我慢するのよ。」
「腹が減った。何か食わせろ。」
「そう、良かった。あたたかいお粥をもってくるわ。」
「お粥?もっとしっかりしたものはないのか?」
「白鳥の肉も入ってるわよ。」
「白鳥?」
「昨夜は炙ったのもあったのよ。とうさんたちが沼の方で沢山獲って来たの。ナガフシも一緒に行ったのよね。」
「本当か?」
「ええ、ナガフシも沢山獲ったのよね。今、持ってくるから。」
 食欲もある。あの威張った様子もいつものタカウズだわ。ニギホはいそいそと食べ物を取りに行った。
「本当か?」
タカウズはナガフシにもう一度確かめる。ナガフシは小さく頷く。
「弓矢も持たないで、どうやって獲ったんだ。」
「石を投げた。」
「なんだって。」
 ここで座ってなんぞいられない。ナガフシを振り払おうと身をよじったが、どうにも身体が動かない。があっと獣のような声が出た。
 粥の椀を持ったニギホが、きっとした顔でもどって来た。
「どうしたの?」
情けない。こんなことで声をあげてしまうなんて。そうだ、こんな小娘に弱いところを見せてたまるか。
「声くらい勝手に出していいだろうが。どうせ好きに動けないんだ。」
「どこも変に動かしたりしてないわね。だけど、無理しないでナガフシの手を借りてね。今はじっとしているのが薬だから。」
 持って来た椀には、ごろりと大きな肉が入っている。奪い取って掻きこむ。たちまち平らげてしまう。
「もう一杯。」
と、椀を差し出す。二杯目もかきこみ、薬湯を飲んでふっと息をついた。
「まあ、おりこうさんね。」
ニギホは、赤ん坊に言うように目を細めた。
「肉はまだあるのか?」
「ええ、でも、今はこれくらいにね。今日もさばいているから、夕方には炙ったのを食べられるわよ。ナガフシ、後はお願いね。」
 
 ニギホはとりあえずほっとした。顔色もよくなったし、全身のぐあいもよさそうだ。気持ちもしっかりしている。ちゃんと治るのかまだ分からないけれど、昨夜の手当てはとんでもない間違いではなかったんだわ。 
「なんなんだ、あの女。」
 タカウズは、あっけにとられてニギホの背中を見送った。ナガフシもぽかんとしている。
「ニギホってあんな奴だったか?」
「……さあ……」
 ナガフシは、勝手にニギホを自分と同じような性分だと思っていた。控えめというより、人と近しくするのが苦手なんだと。あれほど大事にされているのに、うちにこもりがちで、人より物に向かっているときのほうが楽なように見えていた。気心の知れない男には、声をかけるきっかけすら持たせないような垣根を張り巡らせている。
 だけど、今は別の人のように見える。無理やりな笑顔で、上からおっかぶせるような物言いだ。なんの迷いもないように、きっぱりしている。
 本当はどっちなんだろう。 

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プロフィール

楠田文貴

Author:楠田文貴
生まれてこの方何をしても
波打ち際でアップアップの人生でした。
で、初めてUP(オイオイ)
波をこえてどこまで行けることやら……
 さて、物語の登場人物たちが
やけに幼いと感じたら、それが
作者の今現在です。
どうぞ寛容をもってお読みください。

初めての方へ
初めての方へ はじめまして、このブログを見つけて下さってありがとうございます。 このブログは第三章からになっています。ここから読んでも差し支えありませんが、以前のお話をお知りになりたい時は 第一章、第二章をホームページ 《れんげ畑と古の森》 に収録してありますので、そちらをご覧ください。 また、古い記事が上になっています。上から順に読み進めていただけます。 お楽しみいただけたら幸いです。 なにかお気づきのこと、ご感想などございましたら、お気軽にコメントをお寄せください。
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