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28 胸の内から


28 胸の内から
 二、三日もたつと、軽傷の若い衆たちは、そこら辺をうろうろするようになった。
「おい、雪が止んだら鹿を取りに行けよ。あんな上等の獲物をそのまましておけない。」
 タカウズは仲間が来るたびに言った。
「行きたいけど、やっぱり無理だよなあ。」
「しかし、川幅が増えたら、きっと流されてしまうぞ。」
「今頃はクマや狼に食い荒らされてるさ。」
 ニギホが、口をはさむ。
「みんな、今は遠出は禁物よ。怪我がぶり返したら治らなくなる。」
 
 雪模様の数日が過ぎ、穏やかな晴れになった。日の光が、跳ねてこぼれる水のようにきららかに躍っている。ババサマは戸口に腰を掛け半分目を閉じていた。
イブキは、吸い寄せられるように近づいた。誰よりも長く生きているという老女なら、知っているだろうか。自分はなにものなのか。なぜ生かされたのか、命を失った人々は何を自分に託したのか?
 ババサマはまぶしげに彼を見上げた。
「そなたのことは何もわからぬ。」
「何でもよい、教えてくだされ。吾は何故ここにいるのか。何故多くの死を担って生きているのか。」
 ババサマは、沼底のように見通すことのできない眼でイブキを見つめた。
「そなたは、背負わなくても良い荷物を自分から負うている。そなたの行く末はそなた自身のものぞ。」
「あの者たちを振り捨てることはできぬ。」
「そなたがただ生きのびる、それだけがその人たちの望みだと思えぬか?」
「それでは、あまりに片手落ちだ。あの者たちが無念だ。」
「やはり、そなたには無理なことじゃの。……それでは、背負い続けるしかなかろう。だが、死んだ者は答えてはくれぬ。己は、己で見つけるしかない。
もがきなされ。初めて水に落ちた時のように、必死にあがいてみなされ。動き回るのじゃ。そうこうするうちに何かにぶつかることもある。人は、失うものを失い、得るものをえて、自分になっていくものじゃ。」
ばばさまは薄く笑んだ。
 
 ミツハとテグルミは、水場で鍋を洗う。激しい流れから取り入れた水は、手を入れるとすぐに感覚が無くなるほど冷たい。だが、二人は熱心に鍋底にこびりついた木の実や肉の焦げをこそげ取り、ざらざらした鍋土も手の中で濯ぎ落として、口に入れている。
「おいしい!」
 意外なうまさにテグルミが声をあげた。
「こんなにいい味だって思わなかったでしょ。」
鍋を洗う女だけのお楽しみだ。どちらからともなく見交わして「ふふふ」と笑う。
「なんだか悪いことしてるみたい。」
「いいのよ、みんな満足に食べた余りだもの。」
「余りって素敵。」
「そうね。ほんの少しだけど嬉しい。」
激しい水音に混じって、どこかで小鳥が鳴き交わしている。テグルミは背を伸ばして周りを見回す。
「もうすぐ春なんだわ。木の芽、草の芽が出て来るわ。いろんなものが食べられる。」
だが、ミツハは悲しげにつぶやいた。
「春になってしまう。」
「なにか嫌なことがあるの。」
「ないわよ。ただ、確かめなきゃいけないことがあって。はっきりさせなきゃ……」
 春になれば兄が迎えに来る。でもこんな中途半端なまま、浜には帰れない。
決断しなければならない。イブキに思いを打ち明けるのだ。彼の気持ちを確かめなければ、どうにもならない。
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プロフィール

楠田文貴

Author:楠田文貴
生まれてこの方何をしても
波打ち際でアップアップの人生でした。
で、初めてUP(オイオイ)
波をこえてどこまで行けることやら……
 さて、物語の登場人物たちが
やけに幼いと感じたら、それが
作者の今現在です。
どうぞ寛容をもってお読みください。

初めての方へ
初めての方へ はじめまして、このブログを見つけて下さってありがとうございます。 このブログは第三章からになっています。ここから読んでも差し支えありませんが、以前のお話をお知りになりたい時は 第一章、第二章をホームページ 《れんげ畑と古の森》 に収録してありますので、そちらをご覧ください。 また、古い記事が上になっています。上から順に読み進めていただけます。 お楽しみいただけたら幸いです。 なにかお気づきのこと、ご感想などございましたら、お気軽にコメントをお寄せください。
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